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STRAIGHT

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右:代表の原田元輝さん<br/>左:共同代表の横山 徳さん
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右:代表の原田元輝さん
左:共同代表の横山 徳さん

 

株式会社TANT


プロダクトデザイナーの原田元輝さんとグラフィックデザイナーの横山徳さん
が設立した、クリエイティブワーク全般を手掛けるデザイン事務所。単にデザ
インを提供するだけでなく、本質的な課題解決や潜在的価値の発掘など、ク
リエイティブの視点からモノゴトの魅力を引き出す表現方法を共創する。
■株式会社TANT:http://tant-inc.co.jp/
■「ikue」ブランドサイト:https://ikue.work/
■「ikue」オンラインストア:https://ikue-shop.com/
「ikue」ブランドの商品は、オンラインストアのほか、国内外のインテリアショッ
プやミュージアムショップでも購入いただけます。取り扱いショップの詳細は、
「ikue」ブランドサイトにてご確認ください。

 

 

アクセサリーの素材として一般的に用いられることのない紙を使って、まるで貴金属や宝石のような奥行きのある輝きを表現するジュエリーブランド「ikue」。重ねられた約100枚の紙を360度に広げ、その断面に「三方金(さんぽうきん)」という本の加工を施すことで、紙の地色と金色の箔が調和した繊細な色彩を表現しています。そのソリッドな美しさはもちろんのこと、一見すると紙からできているとは思えない意外性や、製本技術を応用したものづくりのプロセスが注目を集め、感度の高い人々を中心に海外にもファンを広げています。


 「普遍的な価値の続くプロダクトをつくりたかったんです」。そう話すのは、このikueブランドを立ち上げた株式会社TANTの原田元輝さん。多摩美術大学プロダクトデザイン学科を卒業後、大手オーディオメーカーに就職した原田さんは、音響機器のデザインを担当するインハウスデザイナーとして活躍独立後、家電などの商品開発に携わるなかで、次々とアップデートされていく技術に対応した革新的なプロダクトだけでなく、今ある技術の価値を再解釈することで新しい可能性を拓くものづくりに挑戦したいと思うようになったそうです。


 新たな挑戦のパートナーとして声を掛けたのは、大学在学中からの友人であり、広告・映像・空間など多岐にわたるジャンルのグラフィックデザイナーと
して活躍していた横山徳さん。「自分たちの手で新しいものを生み出したいという思いを持っていた」という横山さんは、原田さんとともにデザイン事務所
を立ち上げました。

 

 

アトリエの内観。

オフィスのエントランスに展示されている
「ikue」ブランドのジュエリー。

「三方金」とは、本の天、地、前小口の三方の断裁面に金箔を貼る、世界的にも伝統のある技術。本の長期保存のほか、高級感を演出するために用いられる。


 2人の若いデザイナーが「ikue」の商品開発に取り組むきっかけになったのは、「東京ビジネスデザインアワード」というコンペティションへの参加。こ
れは、東京都内にあるものづくり企業とデザイナーのマッチングによって新たな可能性の創出をめざして開催されており、デザイナーは選出された企業と
協働して、その素材や技術力を生かした新しい商品やビジネスを提案するというものです。原田さんと横山さんは、公募されたテーマの中から「三方金加
工」という伝統的な製本技術に着目し、この技術を応用した商品展開とブランド構築を模索することになります。「三方金加工」とは、本にある3つの断
裁面に箔を施す技術で、紙の変色や収縮、虫害や汚れを防ぐ目的で主に聖書や手帳などに用いられています。「三方金という古くから受け継がれてきた技術の特長を再構築して新たな価値を生み出してみようと思いました。初めは紙以外の素材に技術転用して、家具や雑貨をつくろうと考えたのですが、最終的には素直に紙を主役にしたアクセサリーをつくることにしました。紙は身近なものだし使い終わったら廃棄されてしまうもの。だからこそ、人々に驚きを与えたり、新しい価値を生み出せるんじゃないかと思ったんです。それに、プロダクトとグラフィック出身という2人の強みを生かす意味でも、平面と立体のどちらにも生かせる紙を選ぶことにしました」と原田さん。

 

2人の提案する、三方金の技術を応用したペーパージュエリーブランドは、華やかさと繊細さを兼ね備えた商品として高く評価され、最優秀賞を獲得。これを機に製品化に向けて動き出すことになります。

 

「アートを創作する使命感みたいなもの」(横山さん)という思いから創作しているという、端材を使ったアート作品。

抜きや金付けは機械で行うものの、金具の取り付けなどはすべて手作業。
熟練の職人技が必要とされる。

製品化に向けて試行錯誤を繰り返しながら製作した「ikue」のプロトタイプ。

 

 コンペティションで最優秀賞を獲得したものの、ペーパージュエリーを製品化するには、乗り越えなければならないハードルがいくつもありました。「コ
ンペで協働したメーカーでは、コスト的にも体制をつくるのが難しいということだったので、まずは製造を請け負ってくれるパートナー企業選びからはじめる必要がありました。紙の特殊な加工技術が必要になるため、企業探しは難航。ひたすら面会を繰り返すなかで、最終的に特殊製本で有名な篠原紙工さん(東京都江東区)を紹介していただき、ikueの製造をお願いすることができました。
社長の篠原さんはデザイナーの思いを大切にしつつ一緒に最善の方法を考えてくれる方で、箔押し加工の美箔ワタナベさん(東京都荒川区)を含めたプロジェクトチームをつくることができました」(原田さん)。製本、箔押しの分野において、クリエイターや装丁家、編集者から名指しで指名を受けるほどの高い技術力を持つ2社の全面協力を受け、原田さんと横山さんの「ikue」製品化に向けた活動が本格化していきました。


 次に2人が取り組んだのは、「ikue」に使用する紙を選定すること。「紙は、銘柄によって糊や箔の乗りが変わってくるので、特に時間をかけて選びました。耐水性も考えて、ユポ®やワックスペーパーも選択肢として考えましたが、自分たちが表現したい色が出せるかどうかを優先することにしました。また、紙が厚すぎると三方金の繊細な美しさが損なわれてしまうので、ジュエリーらしい華やかさを表現できるもので、なおかつ色のレンジが広い『サガン』と『ジェラード』という紙を採用しています」(横山さん)。同様に、軸と紙をきれいに接着するための糊も重要な要素だったそうです。「このikueは、糊を厚く塗ってしまうと円周が大きくなってしまって紙の枚数が増えてしまうので、いろいろな固定方法の検証を篠原紙工さんと繰り返しました。最終的には均一な開きが実現できて、経年劣化が少なく耐久性に優れているPURという糊を使うことにしました」(原田さん)。また、水に弱いという紙の弱点を補うための耐水実験を経てフッ素コーティング剤を使用するなど、新たな課題を一つひとつクリアし、約2年の歳月をかけてようやく製品化を実現できたそうです。

 

完成した「ikue」は、2018年・19年1月にフランス・パリで行われたインテリア&デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」、5月に東京で開かれた「インテリアライフスタイル」に出展。その均整のとれたデザインと陰影の美しさ、紙をジュエリーにするアイデアから注目を集め、2018年には国際的なデザイン賞のひとつであるDFA Design for Asia Awardsでブロンズ賞を獲得し、世界的にも高い評価を受けています。「手にして初めて、紙でできているということに驚く方が多いですね。それから意外だったのは、男性の方が多く購入されていること。男性が女性にプレゼントしたくなる商品なのかもしれませんね。紙婚式※や結婚記念日など記念日の贈り物やドレスアップした日のアクセントとしてもおすすめです」。※結婚して1年目の記念日。

 

紙を装飾するという新たな可能性に踏み込んだ、紙と金でつくられたジュエリー「ikue」。伝統的な本づくりの技法と時代のセンスが融合した新しいジャパニーズモダンは、これからもタイムレスな輝きを放ち続けます。